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橘玲という作者の名は聞いたことがなかったが、洒落たタイトルと装丁が気になって手にすると、驚いたことに中身は社会問題や経済についての本であった。人生設計・生命保険・年金・医療・教育・不動産などの章に分かれており、それぞれに章には「人間よりも動物病院が豪華な理由」「冷コーとアイスコーヒーと外貨預金」といったようなタイトルからなるコラムが合計50ばかし書かれている。
この手の、いわゆる日本の社会の歪みを曝して、ならばいかように自己防衛をすべきかなどと語る本は腐るほどあるし、個人的にもあまり読む気はしない。週刊誌は毎週のようにこの国のシステムの崩壊についてを書き連ね、新聞の紙面にはあらゆる閉塞感が溢れている。経済学者や記者、ニュースキャスターは、こぞって終末感を煽り立て、もはや漠然とした「不安」そのものが、一種の下世話なエンターテイメントになっている。
しかしこの作品からは、明らかにそれらとは一線を画する清廉さが感じられた。結局のところ、未来のことなど誰にも分からないのであるなら、今のこの状況の中で精一杯生きるしかない。世の中が理不尽で歪んでいることなどは、皆ずっと前から分かっているのだから、そこを踏まえた上でほんの少しだけでもいいから、人生は満更でもないのだということを気づいてほしい。そして自分や家族のささやかな幸福を手に入れるためには、知っておかなかればならない「仕組み」があるのだ。そういったことを、筆者は伝えようとしている。
ところでこの作者は一体何者なのだろうか。小説家にしては経済や法律などの造詣が異様に深い。「海外投資を楽しむ会」という団体の主要メンバーでもあるようだし、「マネーロンダリング」という本も出している。かといって、その筋の識者には到底書けないような粋でどこか悲哀を感じさせる文章は、心の深いところにしんみりと訴えてくる。あとがきの、『雨の降る日曜は幸福について考えよう』というタイトルの由来について触れている箇所を読んで、この人は信じるに値するかもしれないと思った。
子供が生まれたばかりの頃、六畳一間に小さな台所があるだけの古いアパートで、その寝顔を見ていた。いつの間にか日が暮れかけて、雨の音がした。玄関を開けると、雑草の生い茂る庭に銀色の雨の匂いがした。そんな些細なことを覚えているのは、その時、人生は美しいと知ったからだろう。
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