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人生の中で、寝食を忘れるほど何か一つのことに、うなされるように熱をあげて没頭し、溺れたことがあるだろうか。たとえ偶然から始まったものであったとしても。来るべく「いつか」を追い求め、ただ走り続けたことがあるだろうか。たとえ叶わぬ夢であったとしても。
真っ只中にいる時には決して気付くことはなく、むしろ、ひたすら息苦しくもがいているだけだったかもしれない。しかし後から振り返ると、それはまるでオレンジ色の日溜まりの中にいたかのような、それでいてホロ苦くも甘くもある濃密な時間。今となっては精一杯やったのかどうかすらも分からないが、それでも構わない。そんな時期がこの自分にも確かにあったという事実だけでいい。
カシアス内藤というボクサーがいた。黒人とのハーフでアフロヘアーというルックス。そして類い希なるセンスと強さで、若干21歳にして東洋チャンピオンまで登りつめたという伝説のボクサーである。ところが二十五戦目にして初めて敗れてから何かが狂い出し、あっという間に頂点からドン底へと転落する。当時まだ駆けだしのルポライターだった沢木は、カシアス内藤の選手生命の無惨な終わりを見た。
リングを離れ、ディスコの用心棒などをしながらの無気力な日々。しかし内藤は4年を経て突然カムバックを決意する。名トレーナー:エディ・タウンゼント、写真家:内藤利朗、作家:沢木耕太郎が、再び栄光を夢みる元チャンピオン:カシアス内藤とともに人生を賭けた熱く赤裸々な記録、それが『一瞬の夏』であり『カシアス』である。「あの星を繋ぐために」。男たちはそれぞれの"いつか"を追い求めた。
※アリスの「チャンピオン」という唄は、カシアス内藤がモデルになっています。
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