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人はなぜ本を読むのか。単なる暇つぶしから勉強や仕事のためなど、読書には様々な理由があるが、その中でも一番の醍醐味と言えるのは、自分以外の「他者」の人生を知ることができるということではないだろうか。正気を保つことすら難しくなったこの世の中では、自分が心の拠り所としている価値観や信念など、もはや正しいかどうかも分からない。さらに、たとえそれが間違いだと知っても、気付かないふりをして生きていくしかない。
あのとき別のもう一つの選択をしていれば、あのとき彼女に気持ちを伝えることができたなら、といった深い後悔や、もし自分がどこそこに生まれ育ったなら、もし自分が○○○人だったなら、といった無意味な仮定。そんな思いを持ったとしても、現実にはやり直すことも試すこともできない。ただし本を読むという行為においてなら、束の間であってもこことは違うどこかへ、自分を投影することが可能になる。年齢や性別、さらには国籍も関係はなく、あるのは無限大の想像力のみである。
アメリカには、そこに住んでいる人以外は誰も知らないような、ごく小さな町が無数にあり、それは「スモールタウン」と呼ばれ、人口はせいぜい3000人どまり、町のサイズはメイン・ストリートを中心にわずか数ブロックほどの小ささ。本書は、日本人の筆者がアメリカの端から端までをレンタカーでひたすら走り続けながら、そうしたスモールタウンにだけ立ち寄って、そこに生きる人々の話に耳を傾けて書き綴ったドキュメンタリーである。
ここには、TVや新聞で知る傲慢で尊大なアメリカはない。映画や雑誌で見る暴力とセックスに溢れたアメリカもない。スモールタウンでは犯罪はほとんど起こらず、家に鍵をかける習慣などいまだにないらしい。地元紙で「XXさんと△△さんが教会で2時に結婚」といった記事がヘッドラインになるような、アンチ・クライマックスの連続であっても、子供から大人まで皆が等しく、ささやかだけれども語るに足るだけの確かな人生を送っている。自分の知らない場所での、こうした人々の営みに触れることができるロードムービーのような作品。胸が、すがすがしさで一杯になった。
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