| 僕は洋楽・邦楽をまったく分け隔てなく聴いているが、邦楽はダイレクトに日本語が耳に入ってくる分、思い入れを持てるかどうかは、やはり「歌詞」とそれに説得力を持たす「声」がとても重要な要素になってくる。しかしその組み合わせの判断基準は、非常に曖昧かつ微妙な感覚で、例えば歌詞がどんなに文学的で素晴らしくよく出来ていても、声に魅力がなければ、それは単なるポーズにしか聞こえないし、逆に何の意味も無くてくだらない歌詞だったとしても、声そのものがロックであるなら、それはカッコイイとなる。
オレの憧れ アラスカ帰りのチェインソゥー
真赤のボディーに 彼女も悲鳴を上げる
〜『SKUNK』
ベンジーこと浅井健一の、独特の声を敬遠する人は多い。自分も昔はそうだった。バンドブーム終焉の頃に登場したブランキー・ジェット・シティについては、各方面から絶賛の声を当時よく耳にしたが、バンドの決して線が太いとはいえないあの綱渡り的な演奏や、癖のある中性的な声に、一聴してこれは自分の好みではないなと、それ以上興味を持つことを止めてしまった。それは今から思えば単に自分の耳がショボかった、感受性が貧困だったと言えるのかもしれない。
しかし数年後、テレビから流れてきた彼の歌声にある日突然心を打ち抜かれた。実はこの人の頭の中は歌っている世界のまんまなのではないかと、なぜか一瞬で理解できたような気がしたのだ。ハードな曲でも平気でサビの部分で「おばあさんが編んでくれたセーターを着なくちゃ」と叫んだり、静かな曲で「かき氷は宇治金時」とか囁いたりするそのスタイルは、他に似たようなアーティストが存在しないだけに、最初は変わってるなという印象を受けもした。やがてそれは、心に感じたことをそのまま歌にしているからだ、そしてそれこそ誰でも出来そうで実は誰にも決して出来ないことなのだ、という感動に変わった。
シュークリーム 君にあげるよシュークリーム
まばたきひとつしずに
〜『はくせいのミンク』
決定的だったのは、『ワイルドウィンター』というブランキーのインタビュー集である。この本は極めてメンバーと近い関係である友人のインタビュアーがファンクラブの会報誌向けに書いたレポートを編集したもので、音楽誌ではどちらかといえば口数の少ないメンバー達の素の状態がよく伝わってくるのだが、浅井健一の語る様を読んで、こんなひと本当にいるんだなと心底驚くと同時に笑い転げてしまった。彼のように自分の感情の赴くままに、己の信じた道を生きている人は、恐らく一般人が普段生活しているような世界では見かけることはない。極めて天然でピュアな、そして絶対的な芸術家なのである。
新しい国が出来た 人口わずか15人
それも全員センスのない 単車乗りばかりが揃ってる
〜『PUNKY BAD HIP』
ブランキー解散後、その活動はさらにスピードを増し、シャーベッツで5枚、ユダで5枚のアルバムを発表、そして遂にソロ名義でのアルバムがリリースされた。とはいいつつも中身はいつもの浅井健一そのままで、得意とする剥き出しの荒々しい激情と、外国のおとぎ話のようなリリカルな空想の世界という2つの両輪は健在、42才にしても全く衰え知らず。
そういえば長いことあの危険な匂いがプンプンするライブに行っていないな。毎回、彼がステージに登場すると必ずあちこちから、野郎達の「ベンジ〜!」という野太い絶叫が聞こえてくる。そして赤いグレッチをかき鳴らしながらフっと歌い出す、あの瞬間が最高にたまらない。
できるだけ遠い空を見て 何か楽しいことを思って
急に自分の手のひらを見つめると その中に
新しい風が生まれるって 知ってるかい
そして僕は 愛することがしたいんだ
〜『新しい風』
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