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大鳥池のタキタロウ。釧路湿原のイトウ。四万十川のアカメ。この魚たちの名を聞いてピンとくる人は間違いなく子供の頃に漫画『釣りキチ三平』を読んでいたはず。最近は釣り好きの子供なんてあまり聞かないが、昔は普通に友人同士で近所の川へ釣りに行っていた。「釣り」をすること自体が特別ではなかったので、『釣りキチ三平』も大人気、みんなワクワクして読みふけったものだった。
様々な話があった中でも、やはり興奮するのは淡水魚かつ巨大な魚がターゲットになったときだった。タキタロウって実在するのか?イトウってそこまで凶暴な魚なのか?川や池にこんな巨大な生き物がいるなんて信じられない!それは子供にとっては完全なる未知の世界であり、恐怖でもあり、そして大人になってからの夢でもあった。「いつか自分が大きくなって、お金も時間も自由になったら、絶対あの湖へ行ってみるんだ」。真剣にそう考えていた。
しかしいざ大人になってみると、悲しいことに釣りそのものへの興味が失せてしまった。僕のまわりの沢山いた釣り好きたちも、一人を除いてみんな止めてしまった。どうしてだろう。実は釣りというのは行くまでの準備が大変だ。道具の手入れをしたり、仕掛けを作ったり、釣り場の事前情報を仕入れたり、当日の天気にやきもきしたり、と山ほどすることがある。
本来、釣りとはそんな事前準備も含めてが楽しいはずなのだが、日頃から時間の無い大人にとって、それらは全て億劫なことへと変わってしまった。さらには休日の朝から晩までを、自然の中で水面下の見えぬ魚と対峙することに、どのような意味があるのかと、まず頭で考えてしまう。ダメだ。
結局のところ、心に余裕が持てなくなったのだろう。ハマちゃんのようにはいかないのだ。で、『日本怪魚伝』。四万十川のアカメ、北ノ岐川のイワナ、利根川のアオウオ・・・などなど、釣り師の憧憬と仰望をあつめた怪魚たちの、12編からなるこの短編ドラマを読み、あの頃の「気持ち」を思い出すのであった。
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