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随分前に何かの映画の予告編で知ったときから、ずっと心待ちにしていた映画『落下の王国』をカミさんと観に行った。美しさに言葉を失った。僕はあれほどまでに映像の美しい映画を今まで観たことがあっただろうか。今の時代にCGを使わず、4年の歳月をかけてインド・フィジー・バリ・南アフリカなど、世界遺産を含む絶景でのロケ。砂丘の稜線、紺碧の空、そびえ立つ宮殿。圧倒的なスケールと色彩が織り成す映像美に、「何てこった。こんなの・・・この世に有り得るのか」と何度も身体が硬直した。
目を奪われるのは壮大なシーンだけではない。ストーリーは現実と作り話の世界を行き来するのだが、現実でのシーンは古い病院が舞台となっており、そのカットがまた、いちいち計算され尽くされているのだ。ペパーミントグリーンに塗られた病室や廊下の壁。古びた濃いブラウンの窓枠に椅子。クリーム色のカーテン。そしてそれを照らす太陽光の絶妙な角度。何気ない一シーンでさえ、すべての色が心地よく配置されていて、溜息が出そうになる。
もちろん映像美だけで良い映画は成り立つものではない。無名に近い俳優たちを起用した中、準主役の女の子は撮影当時なんとまだ5歳だったというのに、この子役の演技がとにかく素晴らしいのだ。いや、あまりにも仕草や台詞が自然過ぎて、あれはもう演技の域を超えている。不純物ゼロの乳白色のような純真無垢ぶりには、たとえどんなに斜に構えた者であろうと魅了されずにはいられない。
ダメ押しは、世界中を驚かせた先ごろの北京オリンピックの開会式でもコスチュームデザインを担当した石岡暎子による衣装。一歩間違えれば陳腐になりかねない独創的なシルエットと色使いが、数々の絶景に溶け込み、それを極端な遠景で撮るカメラワークが、絵画のようなカットを作り出している。完璧なる調和。劇場で観ることが出来て本当に良かったと、ふたりで満ち足りた気分で映画館を出た。朝10時すぎからの上映だというのにほぼ満員、50代くらいの客がかなり多かった。あんなの珍しいな。
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